![]() 山田知生氏は、プロスキーヤーとして活動後、アスレティック・トレーナーを目指し渡米。アスレチィックトレーナーとは、アスリートがケガをしないようなトレーニングメニューを作り、ケガの予防とスポーツリハビリテーションを担当する職業である。 米国のアスレチック・トレーナーに求められる能力、スタンフォード大学のアスリート達、さらに海の向こうから「日本の若者がどう見えるのか」を山田氏に伺った。 アスレティック・トレーナーとは アスレチック・トレーナーに求められる能力として、「スキル、コミュニケーション能力、リーダーシップ、そして楽しむこと」の4つが重要だと山田氏は語る。 「スキルとは、自分の持っている能力を最大限に発揮し、チームに貢献出来る能力。コミュニケーション能力とは、自分の考えを相手に正確に伝え、意思の疎通をはかれること。またリーダーシップとは、チームの中でリーダーシップを求められている時に瞬時に皆を良い方に導く能力。そして、何より自分の行っている仕事を楽しむことが大切です」 この話を伺って、これら4つの要素は、私たちの普段の学校生活や将来、社会に出て会社に勤めるようになった時も同様に大事な要素であり、普段から考えなければならないと感じた。 チームプレイを重視する米国 アメリカは個人主義というイメージがあるが、実際はチームプレイを非常に大切にするという。 「特に、チームをまとめるリーダーの存在が重要です」。 山田氏に「スポーツにおいて、チームのレギュラーになれるかきわどい選手が自分とチームのどちらを優先するか悩んでいたら、どのようなアドバイスをするか」という質問をぶつけてみた。 「自分がチームのために何ができるのかを考えろとアドバイスします」 個人の能力を高めることも大切であるが、その能力をどのようにチームメイトとチームのために還元できるかがアメリカでも重要視されるという。 「ですからチームには、皆の足並みが乱れぬようにチームが最大限機能するように引っ張るリーダーが必ずいます」。 海の向こうから見た日本の若者 最近の日本の若者に関して、 元気がないと言うことをよく耳にする。しかし、山田氏は「日本の学生は、周りの環境に元気が奪われているように見える」という。「これは彼ら自身に原因があるというより、 子どもの時から受けてきた親や教師からの教育が大きく関連しているように感じます」 日本の子どもたちは、「小さい時から焦らされ、または諦められて、元気さが失わされて育っているのではないでしょうか」。例えば、「小学生の頃から受験に追われ、厳しい競争環境に置かれ、大学受験、就職活動とずっと焦らされ続けながら成長しています」。 そして、周囲の期待通りの結果を出せないと、周囲から半分諦められてしまう。「チャンスが何度も与えられないため、失敗しないようにと大胆さが失われ、さらには挑戦さえしなくなり、子供が子供らしくする機会が失われているように見えます。」 海の向こうのアメリカではどうなのだろうか。 「ここでも教育においては、競争を大事にします。現地でアメリカの子供と触れ合っていると子供たちは年齢に合った競争の環境を与えられ、またいろいろなことにチャレンジさせられる機会に恵まれていように映ります」。 特に、子どもたちの競争環境としてスポーツがある。「スポーツが文化として根づいています。勉強だけに偏らず、様々なスポーツを通じて、競争し、成長していきます。また、人生で最も大事である奉仕する心をボランティアなどの課外活動を通して育んで行きます。」 例えば、スタンフォード大に入学するためには、勉強の点数だけが評価されるのでなく、スポーツ、ボランティアや将来へのビジョンなども含めて、総合的に評価されるという。 「入学後も運動部の生徒達は文武両道であることが求められます。彼らは遠征先でも本とコンピュータを持ち歩き、常にどの分野に進んでもその道のトップを目指すという熱い気持ちを持って、ポジティブに活動に取り組んでいます。」 日本の子どもたちが元気を取り戻すためには何が必要なのだろう。 「日本人はとても忍耐強く、団体の輪を乱さないで行動できる素晴らしい文化が根づいています。子どもたちに年齢に合った競争や学業、スポーツそして社会奉仕と総合的に出来る環境を整えてやり、両親や教師など周りの人々が子供達の見本となるような行動を見せ、粘り強く何度もチャンスを与え、我々大人も子供達と一緒に成長していくという気持ちを持って接してあげること。これが、さらに日本が良くなっていくキーポイントではないかと思います。」 将来について 最後に山田氏に今後のことについて伺った。 「今やっていることは、非常に楽しいです。しかし、近い将来また新たな挑戦をする時が来るかもしれません。今は将来教育者になって、強い日本を世界の中で表現してくれる子供達を育てたいと思っています。」 山田氏は、「世界には違う教育システムがあり、またその中から将来を担う素晴らしい子供達が育って来ている! と100万人にメッセージを届けたい」という熱い思いがある。「でもまずは1つの家庭から、親と子供と自分がチームとなり、子供の元気が吸い取られないような教育を行っていきたいです」 インタビューを通じて、エキスパートとして求められる能力、チームで成果を出すこと、海の向こうから見たときの日本について改めて考えさせられた。まず、エキスパートとして、絶対的なスキルを磨く必要性を強く感じた。インタビュー中に、山田氏の語る時の視線の鋭さと言葉の重みは、エキスパートとしての長い経験から培った自信や強さが、体現されているように思えた。また、チームで成果を出すためには、その状況に応じ、適した能力を持つ人が、リーダーシップを発揮することが重要であることを学んだ。例えば、監督、選手、トレーナーがリーダーシップを発揮する場面は、状況に応じて異なってくる。 最後に、海外から日本を見るとたくさんの気づきが得られることが、大きな発見であった。日本にいるだけでは、気づけない点を、日米の両方の若者を知る山田氏のお話から知ることができた。特に、教育において、「競争」に対する子どもの関わり方が大きく異なり、競争はとても大事なことであるが、競争にもいろいろなタイプがあり、受験競争に限らず、年齢や能力に応じて、適切な競争環境を与え、成長していくことが重要であると強く感じた。 【経歴】 東京生まれ 17歳から24歳までプロスキーヤーとして志賀高原で活動 26歳でアメリカに留学 マサチューセッツ州立大アスレティックトレーニング学科卒業 カリフォルニア州立大学アドバンスアスレティックトレーニング学科修了 スポーツマネージメント学科修了 サンタクララ大学 アシスタント アスレティックトレーナーを経て、スタンフォード大学スポーツ医学部門のアソシエイト アスレティックトレーナーに就任し男子のバスケットボールチーム、男女ゴルフチームのヘッドアスレティックトレーナーとして活動する傍ら、同大学の大学院の教育カリキュラムディレクターも勤める。 アメリカサッカーU21代表チーム帯同経験を有する。 ![]() reported by 中田 遼 Comments are closed.
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September 2011
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